上手な歩行とは
「歩けるようになりたい」
この目標に向かってリハビリを頑張っている方はたくさんおられます。
数歩でも、歩けるかどうかは大きな意味を持っています。
それにより、生活場面での自立度や介護量が変わってきます。
車椅子だと自宅は難しいけど、杖を使ってでも歩けるなら自宅に帰れるというケースもあり、そういう面でも歩行の可否は大切なポイントです。
さて、今回のテーマは「上手に歩く」です。
「歩く」と一言で言っても、人それぞれに歩き方はいろいろです。
では、「上手な歩行」とは一体どんな歩行でしょうか。
背筋がきちんと伸びていること?
杖なしで歩けること?
答えの一つに、上手な歩行とは楽に歩けることというのが挙げられます。
「楽に歩く」とはどういうことでしょうか?
もう少し詳しく説明していきます。
「楽に」は「しんどくない」ということ
楽に歩くとは、無理なく、しんどくなく歩けるということです。
なぜ楽に歩けることが大切かというと、楽に歩けるということは、体に余分な負担をかけずに歩けているということだからです。
スポーツでもフォームが悪いと、腰痛の原因になったり、肘の故障につながったりすることがあります。
そして、それは何度も繰り返せば繰り返すほど、体への負担となります。
歩行も同じで、「歩ければ歩き方はなんでもいい」というのは、しばらくはそれでうまくいくかも知れませんが、数年後も問題ないかというと、それはわかりません。
- 足の付け根が痛くて歩けなくなってきた
- 介助をする家族さんの介助量が多くて、家族さんが腰を痛めてしまった
- 歩くと時間がかかるので、移動時間の問題で、車椅子に戻ってしまった
体の負担が大きい歩行というのは、長続きしにくいです。
今よりも「頑張らなくても歩ける」ようになること。
それが「楽に歩く」です。
手ぶらでなくても構いません。
杖を使ってでも、壁伝いでもいいです。
誰かに支えてもらいながらでも構いません。
今が「頑張って」歩いている状態だとしたら、その頑張りを少し減らしてもちゃんと歩けるようになること。
それができれば、今よりも「上手に歩けている」ということになります。
楽に歩けるメリットはこんなにたくさん!
楽に歩けるようになるとたくさんのメリットがあります。
例えば・・・
●体に無理な負担がかからない分、体に優しいです。
努力性の強い歩行は、どこかに余分な力が入っていたり、偏った体重の支えかたをしたりと、体へ負担をかけてしまいがちです。
体力も多く使うため、歩いていても疲れすい傾向があります。
脳卒中による片麻痺の場合、「頑張りすぎたり」「疲れたり」すると、手足に力が入りすぎてうまくコントロールできなくなることがあります。
そうなると、ますます歩きにくなり、「さらに頑張って歩く」⇄「さらに手足に力が入ってコントロールが難しくなる」といった悪循環になってしまいます。
楽に歩けるようになると、このような悪循環が生じにくくなります。
●楽に歩けるようになると、歩ける距離が伸びてきます。
なぜかというと、体に余分な負担がかからない分、体力の削られる量が減るからです。
しんどくない分、長く歩き続けられます。
●速く歩けるようになります。
楽な歩き方というのは、しんどい時の歩き方に比べ、歩行速度が速くなることが多いです。
歩く速度が上がる分、同じ1分間の歩行でも、より多くの距離を歩けるようになります。
歩く距離が伸びてくると、歩いて出かけられる範囲が広がります。
長く歩ける × 速く歩ける
これが楽に歩けることのメリットです。
今より少しだけでも「楽に」歩ける歩行を目指して
上手な歩行というのは必ずしも、独歩(何も持たずに一人で歩く)のことを指すのではありません。
杖歩行でも、誰かに支えてもらってでも構いません。
「いつもより歩くのが少し楽」
この「少し楽」というのが大切だと思います。
少しの「楽」が、歩行中の気持ちに余裕を持たせてくれますし、「歩く」ということを長く続けさせてくれると思います。